Preparation of Human Oligosaccharides

[要約]

このページでは、鶏卵からヒト型配列の糖鎖を単離し、それら糖鎖の長さ(構成糖の数を可変)を変えて多様な構造の糖鎖を酵素合成した結果について述べる

[多様な構造のヒト型糖鎖の半合成]

糖タンパク質の合成では、高純度なN型糖鎖や糖ペプチドを効率よく合成する必要があるが、依然として困難な課題である。このためには、まず、高純度のN型糖鎖を必要量確保する必要がった。従来のN型糖鎖の化学的全合成では、高度な合成技術が必要であり、また、糖鎖構造のパターンに多様性があるため、合成できる研究グループは限られていた。また、糖鎖が手に入っても、ペプチド固相合成(Solid phase Peptide Synthesis:SPPS)による糖ペプチド合成では、最終工程で、強酸性条件による保護基の脱保護が必要で、その酸により糖鎖が切断されるという問題があった。そのため、酸に比較的弱い、N型糖鎖はSPPSには利用されてこなかった。1997年、瀬古らは、卵黄から鳥固有の配列のペプチドにシアリルN型糖鎖が結合していることを報告した。この糖鎖は、コンセンサス配列のアスパラギンに結合しているので、その鳥固有のペプチドをプロテアーゼで処理し、糖鎖とアスパラギンが結合した天然型の化合物を得ることができればSPPSに利用できると考え、梶原らは検討を開始した。ペプチドのプロテアーゼ処理は、既に野口研の羽田、稲津、戸間らが確立していたのでその方法を採用した。そして、梶原らは、瀬古らの報告をもとに、糖タンパク質合成に必要なN型糖鎖の量を確保するための効率的調製法、および、その構造的特徴を考慮した新規酵素化学合成法を検討した [17]。特に、得られる糖鎖は、30個近い水酸基を持っており有機溶剤には溶けないため、SPPSに利用するための工夫が必要であった。

梶原らはアスパラギンの側鎖に多様な構造の N型糖鎖を得るために、まず、卵黄から単離したシアリルN型糖鎖を出発原料に、酵素消化を利用した半合成法を検討した。まず、シアル酸2つあるうち、一方を酸で処理し、除去後、HPLCでそれらを大量に精製する方法を見出し、シアル酸が一つ結合した糖鎖を2種類、シアル酸が2つとも除去されたものを単離することに成功した。そして、シアル酸が結合していない糖鎖分枝に対し、順次糖加水分解酵素をさまざまな組み合わせで処理することで、24種類の異なる構造のN型糖鎖[18-19](図2_1)を得た。また、それら構造が確かにヒト型であることを核磁気共鳴法を利用して初めて確認し、次の化学合成へと展開した。三分枝糖鎖は、一般的な二分枝糖鎖に比べ、糖タンパク質の生理活性や生物学的性質に影響を与える可能性がある。しかし、高純度な複合型三分枝糖鎖の全合成は、多段階かつ位置選択的であるため困難であった。2016年、真木・梶原グループは、卵黄から単離・調製したアシアリルオリゴ糖を出発原料とし、3分枝N型糖鎖の効率的な半合成に成功した20(図2-2)。有機生物化学研究室では、これら糖鎖を利用し、糖ペプチドの固相合成へと展開していった。